【銀杏・いちょう】
銀杏の木は生きている化石といわれ、1科1属1種の貴重な植物として生き残った植物です。銀杏は真っ直ぐに天に向かって育ち、30mに達する巨木となります。長寿の木で、種を蒔いても孫の代にならないと実らないことから公孫樹ともいいます。また葉は水掻きのある鴨の足に似ていることから鴨脚樹とも書きます。 日本ではどこでも見られるなじみ深い樹木ですが、日本に渡来した時期は意外と遅く、鎌倉時代の初め頃まで歌や詩でも詠み込まれたものがありません。ですから銀杏の家紋が成立するのは早くても室町時代に入ってからだと思います。公家の飛鳥井家が銀杏紋を用いますが、いつ頃から銀杏紋を使い始めたか定かではありません。 歴史的に最初に確認できる銀杏紋は、永享7年(1435)に起きた合戦の様子を描いた『羽継原合戦記(はねつくばらかっせんき)』に、木曽義仲の末流という大石氏が「銀杏の木」の紋を用いていたことが書かれています。この大石氏は武蔵国守護代などを歴任した室町時代の名家です。 また歌舞伎の中村屋が角切銀杏、片岡孝太郎などが追っかけ五枚銀杏、市川染五郎が三つ銀杏を用いています。 家紋としては葉の形が末広がりであることや、強い生命力と長寿から瑞祥的な意味を持って用いられたとする説や、銀杏紋の「イチョウ」は「夷朝(いちょう)」に通じ、他国の四夷をことごとく平らげるという瑞祥的な意味があるともいわれますが、どの説もこれと云った決め手はありません。千葉県を中心に関東地方に多く、また東海地方にも広く分布しています。 |